骨折
犬猫の骨折に対しては、さまざまな治療法があります。
ギブスによる固定は動物の動き、性格などの問題からあまり選択されることはあまりなく、通常手術 には内固定法、もしくは外固定法を選択される場合が多くなります。
当院では様々な種類の骨折に対応できるように、数多くの設備を整えています。
内固定法
内固定にはピン・ワイヤー・スクリュウー・プレートなどを、その状態に合わせて選択し、あるいは組み合わせて行います。
当院では小型犬・猫に発生しやすい橈尺骨骨折に、チタンプレートを使用することで、治癒率と再骨折の可能を減少させています。
外固定法
手術による外固定とは、皮膚を通して外部から骨にピンを挿入し、それを外部でつなぎ固定します。
開放性の複雑骨折や、感染の可能性が高い骨折などに選択される方法です。
手術後のケアについて
手術後の入院期間は状態より変化しますが、早期退院による再骨折を防ぐため、多くは2週間の入院をお勧めしています。
万が一入院期間中に再骨折などの異常が見られた場合、無料にて対応させていただきます。
退院後は1か月ごとのレントゲン撮影が必要となります。
大腿骨骨折
大腿骨骨折はあらゆる年齢、品種、性の犬猫が罹患しますが、
若齢の犬猫が外傷により受けやすい傾向があります。
大腿骨骨折を起こした動物は、その患肢にさまざまな程度の腫脹、 激しい痛み、拳上が見られる事が多いです。
骨折の治癒・合併症
骨折治療の目標は、①癒合の促進 ②機能の回復 ③美容的に満足のできる外観です。
その目標の達成を目指し、最適な方法を選択していきます。骨折の治癒には、その位置・まわりの軟部組織を含む損傷の程度・血液の供給・骨折部分の安定がポイントとなります。
そのいずれかが欠けることで、癒合不全・癒合遅延・変形治癒・感染などを引き起こします。
脛骨骨折
犬猫の脛骨骨折は、交通事故や他の動物との喧嘩、落下などの外傷に起因する事が多いです。
脛骨の周りには軟部組織が少ない事は、開放性の骨折となる可能性が高い原因になっています。
脛骨骨折の治療には、その他の骨折に比べ創外固定法が多く用いられる事が多いです。
そのメリットとして、脛骨骨折はしばしば開放性であるため、骨折部位を金属製のインプラントで 侵襲しなくてすむこと、また創外固定器の抜去が容易であることが上げられます。
創外固定器は骨癒合の進み具合に合わせて、順を追って固定力を減弱していきます。
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨脱臼は小型犬を中心として発生する代表的な膝関節疾患です。
日常の診療の中で膝蓋骨脱臼を起こした小型犬に遭遇する可能性は極めて高いと思われます。
膝蓋骨脱臼の分類として大きく分けると、先天性脱臼と後天性脱臼、また内方脱臼と外方脱臼に分けられます。
臨床的には先天性脱臼の頻度が極めて高く、チワワ・ヨークシャテリア・トイプードル・ ポメラニアン・マルチーズ・柴犬などで好発します。また内方脱臼と外方脱臼の発生頻度としては、 全体の90%以上が内方脱臼となっており、両側の膝関節に発生する傾向が強いです。
膝蓋骨脱臼を起こす病態には様々ありますが、代表的なものを解りやすく上げると、
①大腿骨の変形
②大腿筋群の発育障害
③浅い大腿骨滑車
などが上げられます。
この様な病態が単発、あるいは混合で起こることにより、
さまざまなレベルの膝蓋骨脱臼が発生します。
膝蓋骨脱臼のグレード分け
- グレード1膝蓋骨は手で押すと脱臼するが、手を離せば正常位に戻る
- グレード2膝蓋骨は膝を屈曲するか手で押せば脱臼し、膝を伸展するか手で押せば整復する
- グレード3膝蓋骨は常時脱臼したまで、手で押せば整復するが、離せば再脱臼する
- グレード4膝蓋骨は常時脱臼し、手で押しても整復されない
膝蓋骨脱臼の治療
膝蓋骨脱臼グレードⅠの症例については、通常歩行なども正常で、骨格・軟部組織などにも大きな問題がないので、何もせず経過観察となります。
膝蓋骨脱臼グレードⅡの症例については、自発的な脱臼頻繁に起こり、足を上げる時間が長くなります。 放置により関節炎・変性性関節症が進行することになりますので、症状が持続している症例については早い時期での外科手術を行い、元の機能に近い状態へと戻す事を目的とします。
膝蓋骨脱臼グレードⅢ~Ⅳの症例については、さまざまな異常が先天的に混在しており、ほぼ膝関節を曲げたまま足を着くことが出来ない状態になります。
骨格の変形や筋肉の委縮なども起こしているため、難易度の高い手術が必要になり、術後の経過としても正常な機能・形を取り戻すことが難しくなります。
滑車形成術
大腿骨滑車は本来成長に合わせて自然に形成されますが、何らかの原因により十分な溝が形成されず、その結果として膝蓋骨がうまく溝に収まらないことで脱臼を引き起こします。 そこで溝を外科的に形成する手術を行うことで、脱臼を防ぐことを目的とします。
脛骨粗面転移術
脛骨粗面転移術は脛骨稜を骨切りし移動させることによって、膝蓋靭帯の位置を移動させ、ラインを大腿骨の正面に調節する事で、膝蓋骨の脱臼を防ぐことを目的とした処置です。 単独で用いることはまれで、多くは他の術式とともに実施されます。
大腿骨及び脛骨の矯正骨切り術
膝蓋骨脱臼の治療において、他の手技では整復をすることが出来ないようなグレードⅢ以上の症例に対して行われる術式です。骨の一部を楔形に切除し捻じれの無いように矯正し、骨プレートを用いて整復します。
前十字靭帯断裂
前十字靭帯とは
膝関節の中にあって太ももの骨と脛の骨を結ぶ強靭な紐で、関節を安定に保つ支持機構をいいます。2つの帯で形成されており、脛の骨が前方へずれることを防ぐ働きをしています。
断裂してしまうと...
膝関節の安定性が失われるため、違和感のある歩き方になります。
また、半数以上の症例で内側の半月板損傷も併発します。
なりやすい犬種
- ゴールデンレトリバー、ボクサー、セントバーナード、秋田犬などの大型犬
- コーギー、柴犬、などの中型犬
- ヨークシャテリア、パピヨンなどの小型犬
- などに好発する傾向があります。
原因
前十字靭帯断裂になってしまうメカニズムははっきりとはしていませんが、大きく2つの要因が考えられます。
1.急性前十字靭帯断裂
外傷が原因で生じるタイプで、交通事故やスポーツ(フリスビーやボール投げなどの運動)などで過剰なエネルギーが膝関節に加わることにより起こります。運動量の多い2〜3歳未満のワンちゃんで見られます。ですが、ワンちゃんの場合このような事例は稀です。
2.慢性前十字靭帯断裂 前十字靭帯がゆっくりと慢性的に変性していくことが原因で生じるタイプです。前十字靭帯の変性が進行していくと、靭帯は十分な強度を維持できなくなり、普段の運動でも小さな損傷が蓄積していき、部分断裂が生じます。さら悪化を重ねると靭帯の完全断裂に至ります。犬の前十字靭帯断裂のほとんどがこのタイプです。
慢性前十字靭帯断裂の発生要因として以下のものが考えられています。
・遺伝学的要因
・免疫学的要因
・形態学的要因(大腿骨、脛骨)
・生体力学的要因 ・併発疾患による
症状
前十字靭帯の損傷の程度や半月板損傷の有無に応じて、跛行の程度は様々です。当てはまる症状が複数ある場合は、早めの受診をおすすめします。
・いつも同じ側の後ろ足だけ体重をかけずに立っている
・綺麗な左右対称のお座りができない
・後ろ足が着地はしているが十分に体重をかけられていない
・運動後、後ろ足に歩行の異常がみられる
診断方法
前十字靭帯断裂の症例では、部分断裂と完全断裂、そして半月板損傷の有無によってさまざまな程度の跛行(歩行の異常)がみられます。
問診、視診、歩行検査、触診を行った後レントゲンを撮り診断していきます。
治療方法
・内科的治療
鎮痛剤の投与と運動療法が中心となります。
・外科的治療
安定させる術式は様々な方法が考案されていますが、体重・体格・活動性などを考慮し適切な術式を選択します。
1.脛骨高平部水平化骨切り術:TPLO
大型犬・超大型犬にも対応できる強力な術式です。
本来傾斜のある脛骨高平部を骨切りし回転して水平にすることで、 体重をかけた時に大腿骨と脛骨がズレないようにする術式です。
2.関節外法
基本的にすべての大きさの犬や猫に適応可能な手術です。
人工材料を代替靭帯(人工靭帯)として用い、大腿骨と脛骨を安定化する方法です。関節外法の中にも様々な術式が存在します。
手術後
膝の関節においてこの靭帯は非常に大切な役目を持っています。かなりの負荷をもって機能している靭帯です。状態にもよりますが、約1週間ほど当院で様子を見させて頂いております。
退院後も安静にし、太っている子は減量することによって足への負担を 減らしてあげましょう。