避妊手術
わんちゃんや猫ちゃんを迎い入れたときに考えなければいけない手術です。
手術を受けるか受けないかは、飼い主さんがメリットやリスクについて知って、納得したうえで判断する必要があります。
手術時期
(犬)一般的に、生後6ヶ月~12ヶ月頃、(猫)生後6ヶ月~8ヶ月頃にはじめての発情期を迎え、妊娠できる体になっていきます。麻酔に耐えられる大きさに体が成長していることと、はじめての発情がまだきていない、という2点が避妊手術のタイミングのポイントです。
当病院では生後6ヶ月から避妊手術をお受けしております。
避妊手術を受けることで発症のリスクを減らせる病気があったり、他にもいくつかのメリットが考えられます。
乳腺腫瘍
その名の通り乳腺にできる腫瘍です。
犬・・・発症が多く、人の3倍なりやすいといわれています。良性、悪性の確率もほぼ50%で、悪性の場合は肺などに転移がみられるケースもあり、命に関わることもあります。しかし、はじめての発情がくる前に避妊手術を行うことで、99%以上もの高確率で発症を防げると言われています。初回の発情がきてからの手術では、予防できる確率が徐々に下がっていきます。
猫・・・避妊手術を行なう月齢によって乳腺腫瘍の発生率が違うと言われています。具体的には、生後6ヶ月以前に避妊手術を受けたメス猫が乳腺腫瘍になる危険性は、避妊手術を受けていないメス猫の約9%、7ヶ月~12ヶ月までに避妊手術を受けた場合は約14%に減りますが、13ヶ月~24ヶ月までに避妊手術を受けた場合は約89%、24ヶ月を過ぎると100%となって未避妊雌とあまり変わらなくなります。悪性度も非常に高いです。
子宮蓄膿症
外陰部から子宮に入った細菌が増殖し、子宮の中に膿が溜まる病気です。たまった膿で子宮がパンパンに膨らんだり、破裂してしまうと、全身に膿が回って命を落とすこともあります。
発情期のストレス軽減
犬・・・発情は年に1~2回で、10日間ほど続きます。発情中は、「食欲がない」「不安」「落ち着かない」「オスに近寄りたがる」などの様子がみられます。普段よりも神経質になり、ストレスを感じやすくなる子もいます。
猫・・・個々に差はありますが、春から夏にかけて年2、3回ほど発情期を迎えます。その間、高い声で鳴いたり、人や物にさかんに身体をこすりつけて甘えたりなど、日常の行動に変化が見られる他、興奮した状態が続く、食欲が落ちるなどの変化が起きます。
問題行動の防止
威嚇行動(よく吠える、咬みつくなど)やマーキングの抑止効果が期待できます。
※手術によって性格が変わるわけではないので性格上、こういう行動をとっているケースでは改善されない場合があります。
他にも、わんちゃんの場合、発情出血がなくなるため掃除などの手間がなくなります。
リスク
麻酔・・・避妊手術は、全身麻酔をかけて行います。どんなに若くて健康な子であっても、100%安全な麻酔というのはありません。
事前検査をして異常がなかったとしても、不慮の事故が起きる可能性はあります。十分に説明を聞いて納得した上で、決断するようにしましょう。
体重増加・・・避妊手術を受けると、繁殖に使っていた分のエネルギーが不要になるため、代謝が落ちて体重が増えやすくなります。
手術方法
避妊手術の方法は、大きく分けて2通りあります。
左右にある卵巣だけを摘出する方法と、卵巣と子宮を全摘出する方法です。
※発情しているときは手術をすることができません。発情中は、子宮が腫れて充血しているため手術中の出血量が多くなったり、急激なホルモンバランスの変化による体調不良を引き起こしたりするおそれがあるからです。発情が終わっても、しばらくは子宮が腫れた状態が続きますので、手術をする場合は発情から最低でも1カ月は期間を空けるようにしましょう。
術後
通常は1日ほどで退院できます。帰宅後はできるだけそばで様子をみるようにしましょう。
傷口が開かないよう激しい運動は避け、舐めないようにエリザベスカラーをつけまそう。順調であれば約1週間後に抜糸となります。抜糸後も2~3日はエリザベスカラーをつけたままにしましょう。
また、体重もしっかりコントロールしてあげることも大切です。
胆嚢摘出
胆嚢とは
胆嚢は西洋梨の形をした容積30-50ml程度の袋状の臓器です。
肝臓で作られた胆汁は胆道(肝内胆管、胆嚢、総胆管)を通って十二指腸に流れます。胆嚢は胆汁をいったん貯え、濃縮します。胆汁は石鹸のように、脂肪を水に溶けやすくする働きがあります。十二指腸に脂肪分の多い食物が流れてきた時に、胆嚢はホルモンの働きにより収縮して、貯えた濃縮胆汁を総胆管を経由して十二指腸に排出します。
その結果、胆汁と接触した食物中の脂肪分は水に溶けやすい物質に変わり、酵素により分解され、小腸で吸収されます。このように胆嚢は脂肪の分解、吸収を助ける働きをしています。
胆嚢摘出の対象となる病気は?
診断方法
まず超音波検査を行います。鋭敏で簡便な検査です。
症状があり、さらに精査を必要とする場合には、腹部CT検査、腹部MRI検査、点滴静注による胆道造影検査などを行います。
手術方法
① 開腹…10~15cmぐらい切開する開腹術を行います
② 胆嚢剥離…胆嚢を肝臓付着部から剥離します
③ 肝外胆管洗浄、総胆管・腸管の開通性確認
④ 胆嚢切除
⑤ 腹腔内洗浄と閉腹
胆のうを摘出しても大丈夫!?と感じるかもしれませんが、胆のうがなくても、それに対する症状はほとんど認められないとされています。
胆のうがないことによる変化は、胆汁を食後のタイミングで小腸に放出できなくなることですが、これによる消化吸収が低下するなどの研究結果は今のところないようです。胆のうがないと、胆汁の産生を肝臓が頑張る、という研究もあり、このような背景から、胆のう摘出は、犬では比較的よく見る手術です。
術後
当病院では、5日間ほど入院していただき、様子を見させて頂いております。
退院の一週間後に抜糸に来ていただき傷口などの様子を見させて頂きます。
去勢手術
犬や猫を飼う際には、去勢手術をすることが推奨されています。
手術時期
ワンちゃんの場合、犬種差や個体差はありますが、通常生後6ヶ月から10ヶ月で性成熟を迎えるといわれています。猫ちゃんの性成熟は生後3ヶ月ごろから始まります。生後5~6ヶ月を迎えると精巣が発達して繁殖が可能な体になります。
手術は全身麻酔をかけて行うため、ワンちゃん、猫ちゃんの体調が良好なときに行なうとよいでしょう。
当病院では生後6ヶ月から去勢手術をお受けしております。
去勢手術のメリット
・放浪やケンカなどの行動を抑える
・攻撃性の低下
・マーキングやマウンティングの改善
・肛門周囲腺腫という腫瘍の発生率を低下させる
・前立腺の病気(前立腺肥大など)の発生率を低下させる
・会陰ヘルニアを予防できる
・精巣腫瘍を予防できる
去勢手術のデメリット
・全身麻酔のリスク
・去勢手術後は手術前よりも代謝エネルギー量が減る(20‐30%程度)ため、太りやすくなる傾向にあります。
手術方法
去勢手術は、外科的に男の子の精巣を摘出する手術です。一般的に手術は全身麻酔をかけて、精巣付近の皮膚を切開して行います。
術後
通常は1日ほどで退院できます。帰宅後はできるだけそばで様子をみるようにしましょう。
傷口が開かないよう激しい運動は避け、舐めないようにエリザベスカラーをつけまそう。順調であれば約1週間後に抜糸となります。抜糸後も2~3日はエリザベスカラーをつけたままにしましょう。
また、体重もしっかりコントロールしてあげることも大切です。
会陰尿道造ろう術
会陰尿道造ろう術は一般的に雄猫に行われる手術です。
もともと猫ちゃんは尿路結石を患う子が比較的多く、特に雄猫は雌猫よりも尿道が長く細いために閉塞を起こし易い特徴があります。簡単にいうと雄猫のペニスを切除してしまい雌猫のような尿道に作りなおす手術です。
症状としては何度もトイレにいったりするので、頻尿でちょこちょこ排尿できていると勘違いされる飼い主さんもいらっしゃるかと思いますが、尿道に結石等が詰まり、おしっこが出せなくなっている排尿困難は要注意です。
様子を見て放っておくと、急性腎不全による食欲低下、嘔吐から最悪なケースとしては膀胱破裂や死につながるケースもあります。現在では優れた療法食もあるので手術を回避できる場合もあり、必ず行われる手術ではありませんが、一般的には下記のような雄猫は手術適応になります。
手術
最初に術後の剃毛・洗浄をしていきます。
猫ちゃんのペニスは包皮に包まれているのでペニスを露出し、尿道を切り上げます。
その後、尿道粘膜と包皮粘膜を利用し筒状に尿道を再建します。
術後
予防
本術式では術後は普通に排尿できますので、傷が治ったあとは特に投薬は不要です。
ただし、この手術は結石ができなくなる手術ではありませんので、結石の成分分析結果によっては療法食での管理や、結石再発の定期的検診は必要かと思います。
前立腺膿瘍
前立腺とは
犬の前立腺とは膀胱の根元にあり、精液の一部となる前立腺液を分泌する雄の副生殖腺です。
前立腺腫瘍はほぼ悪性です。その中でも、分泌物を産生・放出する腺細胞が癌化した腺癌が最も多くを占めます。
他には上皮細胞の一種である扁平上皮や移行上皮が癌化した扁平上皮癌、移行上皮癌などもみられます。
前立腺腫瘍は転移率が高く、骨へよく転移します。具体的には骨盤や腰椎、腰椎のそばにあるリンパ節(免疫細胞が集まり免疫に関わる場所)などへ転移がみられます。
骨に転移すれば歩行異常もみられるようになります。
また、進行すれば尿路閉塞が起こり、排尿ができなくなることもあります。
前立腺腫瘍は老齢で発生する傾向があり、かなり進行してから発見されることも多いです。
犬の前立腺腫瘍の原因
前立腺腫瘍のはっきりした原因はわかっていません。
前立腺腫瘍の主な検査
・触診
※体を触って構造上の異常や痛みなどがないかを確認する
・直腸検査
※直腸に指を入れ、確認できる範囲での直腸の構造的異常や前立腺の触知を行う
・血液検査
・X線検査
・超音波検査
・尿検査
・尿道カテーテルの吸引による採材・細胞診
※管を尿道に入れ、前立腺のあたりでポンプ(シリンジ)で吸引し、採れたものを顕微鏡で確認する
など
手術内容
1.お腹からアプローチするため、お腹周りの毛を刈り、洗浄していきます。そして、お腹を切開していきます。
2.骨盤を切開し、前立腺にアプローチしやすい状態にしていきます。
3.前立腺周囲臓器を精査します。前立腺腫瘍が膀胱に進展している症例も多いです。
4.精管を離し、血管を前立腺付近で結紮・離した後に、前立腺を頭側の膀胱と尾側の尿道から離します。
前立腺を取る際に、尿あるいは尿道中の腫瘍細胞が広がっていかないよう注意しながら行います。
5.尿道からカテーテルを膀胱に挿入し、尿の排出路を確保した後、切った膀胱と骨盤部尿道を縫い合わせていきます。
6.骨盤の整復とお腹を縫合していきます。尿道カテーテルをいれる場合があります。
摘出した組織は病理組織検査に出し、悪性か良性か判断いたします。悪性の場合抗がん剤治療を検討することも考えられます。
術後
尿の出などを確認しながら様子をみさせていただきます。縫い目を舐めないようにエリザベスカラーを抜糸の赤みがなくなるまでつけていただきます。
膀胱切開
膀胱切開の適用となる一般的な疾患は、
・膀胱結石
・膀胱腫瘍
などです。
膀胱結石
腎臓、尿管、膀胱、尿道のいずれかに結石が存在する疾患を尿路結石症といいます。
特にその中でも多いのが、膀胱内に結石が出来てしまう膀胱結石です。
原因
結石の種類によっても異なりますが、細菌感染が起因しているもの、肥満や運動不足で水を飲まずこまめに排尿しないこと、食べ物が関係しているもの、遺伝的な要因、などが考えられます。
結石の種類
ストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)
シュウ酸カルシウム
尿酸塩酸カルシウム
シスチン
シリカ
などがあります。
中でもストルバイトとシュウ酸カルシウムの2種類が大半を占めています。
治療と予防
内科治療(食事療法、抗生物質の投与)で反応がない場合は、外科的に膀胱を切開し結石を摘出する必要があります。
また、手術したら治療終了ではなく、結石摘出後の再発予防が更に重要となります。
結石成分ごとに推奨されている食事療法を徹底していく必要があります。